【研究ニュース】武部俊寛の新千里北町(大阪府豊中市)の車止め配置に関する「都市計画学的」研究~「車止め:大学院生が謎を解明 」( 毎日新聞より)~【'18.5.10_リンク切れ確認】

1.はじめに

寒さに引きこもり、不摂生なまま、ブログを更新し続けている管理人です。テレビをつけると、何かと暗いニュースが多く、昨日の火曜から、ずっとブルーマンデーな状態でした。

明るいニュースで少しはハッピーになりたいとネットを徘徊していたところ、院生の研究活動が毎日新聞で紹介されておりました。何回か、書いていますが、本来なら院生の新発見を紹介できるのが、ここでは理想なんです。


修士論文の研究がメディア報道されるなんで、嬉しい!ということで、本日はその研究を取り上げます↓

「車止め:大学院生が謎を解明 」( 毎日新聞、2017年2月12日 18時57分、最終更新 2月12日 19時11分)

(*一応、「続きを読む」ボタンを押すと、読めるようです)



2.研究のきっかけとテーマについて

 毎日新聞によれば、大阪の「吹田市と豊中市にまたがる「千里ニュータウン」」という住区の一つ「新千里北町」の「リスやゾウなどの動物に幾何学デザイン」の車止めの規則性について、武部俊寛さんが修士論文で研究を行いました。

武部さんは、近畿大学の大学院で建築計画を専攻する院生。千里ニュータウンについて、調べるうち、町ができた50年ほど前に、「なぜこれほどバラエティーに富む車止めが置かれたのか」と気になったようです。新千里北町の地元民も知らないこの謎について、一人の大学院生が挑むことになりました。



3.調査とその結果

武部さんは、

 ・新千里北町の道路をまんべんなく調べた

 ・全部で52基の車止めの存在を確認した

  ➡動物型はリス、ゾウなど9種類、

   幾何学型は4種類のデザインが存在

 ・住民に聞き取りをすると、

  工事などで撤去されたものもあったこと、

  開発当初はもっと多くの車止めがあったことも判明した



4.分析より判明した車止めの規則性

結果を分析するなか、配置の様子に法則性があることにも気づきました。例えば、「豊中市立北丘小学校の通学路などに利用されている主要な歩行者専用道路への進入口の車止め」や、公園の傍らにあるものは、(原則として)動物型でした。幾何学型のなかで、逆三角形の車止めのその先には、「多くの場合、下り坂や下り階段があること」もつかめたそうです。


武部さんの分析によれば、都市計画を行った設計者が車止めについて、以下のようなことを意図していたと話しています。

 ・「子どもの通行が多い」場所:動物型にしてドライバーに注意を促す

 ・車止めの種類に多様性を持たせる➡「道を間違えないための目印にしてもらう」

 ・下り階段などの存在を知らせる

などの狙いがあるとみられ、武部さんは、住人の安全や地域での共同体づくりを大切にした設計者の思いが感じられる、といったことを話しておられました。



5.不明な点と呼びかけ

以上、武部さんは、住民の安全地域的な繋がりが、町の設計者によって込められていたことを明らかにしました。残ったのは、車止めを設置した存在と発案者については誰なのか、ということだそうです。


今回の千里ニュータウンは大阪府主導で開発されたものの、新千里北町の設計に「民間業者も関わっている」としています。事情を知っている人がいたら、車止めに込めたどのような思いを持っていたのか、直接聞いてみたいと武部さんは述べていました。ここで毎日新聞の記事は終わります。



6.この研究に対する私の見方と感想

今回、毎日新聞から、ほぼ丸写しのような形で、武部さんの修論の内容を紹介させて頂きました。実は、建築計画学の研究を記録的に残しておきたくて、このような書き方を致しました。ご理解ください。


武部さんの研究に関して、結局、車止めの発案者、そして車止めの配置に絡んだ都市計画者は誰か分からないままです。Twitter上の反応では、この発案者が不明な点にツッコミを入れる人がチラホラおられました。


一応、都市の中の公園や商業複合施設などにおけるベンチ、銅像、その他モニュメント等の計画性とアートについても、研究テーマにしている研究室に出入りしていました。そこの同期によれば、ホットな話題として排除アートがあるようです。そういうわけで、多少、武部さんの修論テーマには、私もコメントできると思います。


大阪府吹田市と豊中市にまたがる千里ニュータウンについては、失礼ながら、非常にローカル過ぎて、「太陽の塔と国立民族学博物館(みんぱく)のある旧大阪万博跡地」と「大阪大学のある学生のまち」というイメージが強く、千里ニュータウンのほうまで、意識がいっていませんでした。ただ、ニュータウンと銘打たれ、高度経済成長期以前から住宅地の開発が進んできたということは、確かだと思われます。


新千里北町の都市計画は大阪府が主導しつつも、そこには民間業者も関わっているとのことです。武部さんが現状で分かっていること以上の車止めに関する情報を得ようとするなら、大阪府の都市計画を管轄している部署なり、豊中市の区画整理事業に関する文書を保存してそうな部署なり、そういうところにアポイントをとった上で訪問すること。そして、その部署にある「山のような文書」を自分一人で読んでいく作業が、必要だと予想されます。


修士論文を書くのに、地域の住民に逐一、聞き取り調査を行い、合わせて車止めを52基を確認したという武部さん。たとえ、同じ研究室の人たち、それから市民団体の人たちの協力が得られたとしても(朝日新聞の記事よい、のちリンク切れ確認)、骨が折れるようなかで、投げだしそうな作業について、もし、修論で残った謎を追究しようとするならば、お役所に眠っているかもしれない大量の文書を読んでいく、今まで以上にハードな調査が待っています。時に、きな臭いところを行政文書から掘り当ててしまい、苦悩することになるかもしれません。博士課程で近いテーマを扱っている別の研究室の院生さんたちを見て、聞いているこちらが息苦しくなったこともありました。


加えて、都市計画学のなかで、特に行政の協力が必要な研究テーマを進めようとすれば、いちいち、お役所の担当部署の職員と連絡を取り、日時を指定し、保管文書を見せて頂くという手間が発生します。修士卒で地方自治体に職員として就職し、研究を継続する人がいるのは、こういった作業効率を考慮した背景があるのです。実際、地方公務員試験を受けて都市計画事業の担当部門に配属を狙ったり、地方自治体の法人の研究所に就職したり、そういうところに職を得た後輩がいました。


話の雰囲気が重く、シリアスになってきたので、武部さんの研究テーマと調査の評価に方向をもっていきます。得られた調査結果を見ると、それほど大したものではないと思う人もいるかもしれません。しかし、住民への聞き取り、道にある車止めの一基ずつの調査は、協力者がいたとしても、非常に忍耐力が要求され、心身が頑丈でないと続かない、時に過酷なものだったと思われます。今回の武部さんの研究は、新千里北町というローカルな「まち」の成り立ちを都市計画の中の車止めという視点から見つめ、そこから「まち」の現代史を一部明らかにしてたという文脈において、評価できるでしょう。毎日新聞に取り上げられたことからも、武部さんの研究は一定の水準に達していたと思われます。


そもそも、修士論文は「文系(特に人文科学系)博士卒のアカデミックポスト就職の現実と求人情報掲載先の紹介 - 仲見満月の研究室」の「2-2.文系修士生にぜひ読んでほしい記事の紹介」で書きましたように、物足りない結果というくらいのレベルが当たり前なんです。そういう現実に照らせば、武部さんの研究は修士論文の合格ラインに十分達していると私は考えました。


今回は、近畿大学の大学院生・武部俊寛さんの行った、新千里北町の車止めを通じてみた都市計画発案者の思惑に関する修士論文の研究について、毎日新聞の記事をもとに紹介させて頂きました。今後も、こういった現役大学院生の研究に関する報道があれば、見つけて可能な限り、取り上げていきたいと思っております。


おしまい。



7.追記:関連情報

武部俊寛さんのサイト:

なかみ博士の学術系問題研究所

仲見満月(なかみ・みづき)が院生や研究者とその周辺の問題を考えるサイト。学術系ニュースの同人誌、発行しています。