1.はじめに~和歌山県の高校教員採用試験のニュースから~
先週後半以降、該当の教員免許を持たない博士号取得者でも、自治体の教員採用試験を受験できるところがあると、主に私のTwitter周辺で話題になりました。その発端が、和歌山県の決定に関する次のニュースだと思われます:
(2018年5月10日更新、紀伊民報)
「「博士号で受験」全教科に 和歌山県の高校教員採用試験」というタイトル。2015年以降、和歌山県は理系科目(数学、理科、農業、工業)については、受験者がこれらの中の志望する科目に関係する分野の博士号を取得していれば、教員免許状不要で教員採用試験を受験できるとしていたそうです。今回、和歌山県教育委員会は、文系科目にも広げ、高い専門性を持つ人材を広範囲から集めようとしているとのこと。
採用試験の具体的な話では、受験者は「1次検査の「一般教養」「校種・教科専門」、2次検査の「教職専門」」を免除され、その代わりに「1次検査で「作文」が必要」になっているとのことです。前回の試験までで、2018年までの3年間で2人が合格していて、合格した人には和歌山県内で有効である「特別免許状」を発行しているようです。
実は、教員免許がなくても、博士号があれば教員採用試験の受験ができる自治体は、和歌山県以外にもあって、Twitterで話題に挙がってたところでは秋田県がありました。たしか、化学か物理学に関する博士号ホルダーの人が理科の学校教員として受験していた話を耳にしたことがあります。おそらく、合格した場合、秋田県でも特別免許状を発行して、業務に当たれるようにしていると思われます。
さて、私の周りには主に中高の教員免許を取得しており、院生の頃から臨時講師をしたり、転職して中高で学校教員をしていた人が、実は多くいました。教員免許を持っていない同期も教科指導で中高一貫校に非常勤に行っていたようで、どうなっているのか、尋ねてみたところ、特別な書類をもらっていた人もいて、特別免許状のことだと思われる人もいました。そして皆さん、数年ほど経験を積んでいた人もいて、教えるのが上手な人がいたようでした。
ここらへんの話については、「博士号取得者を安易に学校教員に採用できるようにして、よくないのでは?」という声や、「教員免許取得者の持つ専門性の軽視になるのではないか?」という疑問が、ネット上だけでも挙がっていました。よい機会なので、今回は、「教員免許なしの博士号取得者が学校教員に採用される話」について、個人的な考えをまとめておきます。
2.「教員免許なしの博士号取得者が学校教員に採用される話」に関する2つのモーメントと、更に補足の話
今回のテーマについては、5月第2週の後半、私がフォローしている方とその周辺で、話をされている方がいらっしゃいました。
そこに私が加わる形で、その専門性や生徒・学生に対して求められる生活指導や学習指導などの観点から、「教員免許(主に中高)と博士号の違い」について、ツイートしたものをモーメントにまとめさせて頂きました:
最初のモーメントの内容を受けて、私が個人で呟いたことを次のモーメントにまとめました:
よくある疑問として、博士号取得者を「必要なトレーニングなし」で学校の現場に放り込むと、 自分の専門範囲の狭いことしか授業で扱えず、学習指導要領で必要とされる内容の学習指導ができないのではないか、というものがあります。乱暴な言い方をすれば、いわゆる「専門バカ」問題です。このことに関しては、私が個人で呟いた「教員免許(主に中高)と博士号の違いとその周辺の話」で書いていますので、そちらをお読みください。
モーメントについて、思い出したことがあるので、少し補足致します。
該当の教員免許と博士号を両方持っている私としては、できる範囲で現場の経験豊富な先生方がサポートして下さることがあると、あちらこちらから、聞いています。先の特別免許状を出してもらい、関連分野の同期ほかについても、必要なトレーニングは受けていたようで、要は現場にやって来た博士号持ちの新人教員をどれだけ支え、訓練できるか、にかかっているのではないでしょうか。
なお、私が就職活動をしていた時に聞いた話ですと、当時(2015~2016年くらい)の私立学校では、採用した新人を非正規で雇用して、経験を積ませて育ててから、正規雇用する際には査定を行い、「専任教員」として雇用し直すことが多かったようです。
いわゆる(小)中高の非正規の学校教員は、担当教科の授業だけを担当し、通常は学級担任、進路指導などは受け持たない「非常勤講師」(いわゆる非常勤)、学級担任を持って進路指導をも担う「常勤講師」(休職する正規教員の代わりの場合がある)の、主に2つの種類があります。私が非常勤をしていた時は、授業のある日だけ学校に来て、教材を印刷して、授業をやり、その後は小テストの採点やノートチェックをする、といった業務をして、退勤する感じでした。
正規教員や常勤講師の先生方に比べて、非常勤講師は生徒と接する機会は少なく、進路指導はしなくてよく、生活指導の範囲は狭いでしょう。
(服装強化週間には、服装チェックを授業開始前にすることになり、それが好きではない私は、苦々しい気持ちになりました。そのあたり、指導が嫌な人は、身だしなみに厳しくない学校の勤務を目指したらよいと思います)
もし、採用された博士号取得者(教員免許なし)が教科担当のみの非常勤講師であれば、授業で学習指導ができるよう、そのトレーニングだけをすればよいでしょう。ところが、正規教員や常勤講師としての採用をするのであれば、やはり教員免許の課程でカリキュラムに組まれている、進路指導や生活指導、また学校カウンセリングに関する児童・生徒の心のケアといった、学校教育に必要とされる知識と訓練がなされなければ、現場で適切な仕事ができません。
(授業であろうと、進路や生活の指導であろうと、トレーニングは必要ですが)
そういうわけで、私は博士号取得者を学校教員に正規採用するのであれば、1~2年は学校教育の現場で必要な座学、実習を行い、それから実際の現場に出す、という意見に、賛成です。何なら、その期間に所定の履修単位を取得し、試験に合格すれば、特別免許状ではなく、正式な教員免許を発行してもよいのではないでしょうか。
3.最後に
私立学校については、先に書きました。なので、公立学校の話をもう少し、致します。冒頭のニュースは和歌山県の話でしたが、次は広島県で公立小中学校で教員不足が報じられていました:
(テレビ新広島/Yahoo!ニュース、5/15(火) 12:06配信)
このニュースを読み、問題だと感じた点は、次の2つです。
・県教委が県内の公立小中学校などを対象に調査を行ったところ、35校で教員が不足
・不足しているのは、臨時採用の教員26人、非常勤講師12人のあわせて38人
・「呉市の吉浦中学校では、先月、必要な教員が確保できず、国語と理科の授業が予定通り行えなかった」
非正規の枠に頼らず、正規教員を採用して、常時、授業が行えるようにすべきでしょう。
ただ、学校教育の現場では、部活動での拘束、長時間労働など、近年は諸問題が指摘されています。私が非常勤に行っていた時、急病に倒れて休職されたり、離職者による授業担当者の不足に悩む学校があると聞いたりしました。教員採用試験に受かった後輩の一人は、あまりの忙しさに体調不良が続いたせいか、2年ほどで転職したようです。そこに、10年ごとの更新制度によって、更新講習を受けられなくて、免許が失効となって現場に復帰できなくなった先生たちがいます。
以上のような背景により、現場では学校教員が不足しています。そうした現場に、博士号取得者(教員免許なし)を新たに入れたとしても、根本的な労働と免許の更新制度の問題が解決されない限り、離職は続くでしょう。各自治体には、こうした問題の解決に取り組みながら、 教員免許なしの博士号取得者の採用を整えて頂きたいものです。
おしまい。
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